化学的な合成でつくられた物質とは、樹脂をはじめ、化学肥料や繊維材料、凝集性材料、チクソトロピック剤などの化学品のことです。これらの乾燥工程に乾燥機が使用されています。
乾燥機を使用する理由としては、たとえば吸水・吸湿の著しいプラスチック材料を乾燥しなかった場合、製品に不具合が発生する可能性があります。乾燥工程には不具合をできるだけ抑える、または排除する重要な役割があるため、乾燥機が使用されているのです。
また、乾燥機の使用は色むらやガスなど美観上の問題を防ぐほか、加水分解や製品の損傷を防止するのにも役立ちます。化学品によって最適な乾燥機が異なるため、メーカーと相談しながら適切な乾燥機を導入しましょう。
化学品の化学変化や物理変化は、製品の劣化や物性の低下を招く可能性があります。製品の品質にかかわる問題のため、化学分野においては化学変化・物理変化を起こしにくい乾燥機かどうかが重視されています。
化学変化とは化学物質が別の化学物質へと変化すること。似たような言葉に化学反応というものがありますが、これは化学物質が化学変化すること、または化学変化が起こる過程を指します。
物理変化は、物質の材質は変わらず、形状や状態が変化することです。物理変化の主な内容には、状態変化や変形、溶解、混合などがあげられます。
温風乾燥は熱風乾燥とも呼ばれ、最も広く利用されている乾燥方法です。熱風機やブローヒーターなどを使ってワークに温風を送り、洗浄溶媒を蒸発させて乾燥させる仕組みになっています。比較的安価で導入できるほか、乾燥時間が短いのがポイント。また、大量の部品の乾燥に対応できるのも温風乾燥の特徴です。
精密洗浄後に温風乾燥を利用する場合は、ワークが温風に含まれるちりやホコリで汚れるのを防ぐため、温風をフィルターでろ過してから乾燥槽に供給する必要があります。
温風乾燥のデメリットとしては、高熱での乾燥になるため、ワークが冷めるまで後工程に移れないこと。また、乾燥槽の耐熱対策も必要です。
遠赤外線乾燥はワークに赤外線を照射して温め、洗浄溶媒を気化・蒸発させる乾燥方法です。赤外線は直進するという性質を持っているため、単純形状のワークを枚葉処理する場合に適しています。
一方で、赤外線の間接加熱で洗浄溶媒の蒸発潜熱を補う乾燥法なので効率が悪いのが難点。また、沸騰した洗浄溶液が飛び散ったり、洗浄溶媒が遅れて乾燥することで染みになったりする場合があるため、液きり後の乾燥品質を向上させるために利用するのが適切です。
また、波長の長い遠赤外線を選びがちですが、ワークの乾燥目的で利用するなら近赤外線源を並べたほうが照射エネルギー量を稼げ、早く乾く場合あり。さらにワークに吸着した微量の洗浄溶媒も除去できるため、高温に耐えられるワークの成膜前洗浄後の乾燥によく適用されています。
真空乾燥は、濡れているワークを真空チャンバーに収め、減圧することで洗浄溶媒の蒸発を促す乾燥法です。
急速に減圧すると洗浄溶媒が瞬間的に沸騰(突沸)し、速く乾燥させることができます。この突沸を利用することで、部品の狭い隙間や無貫通穴の内部に入り込んだ洗浄溶媒を除去することが可能。そのため、複雑な形状部品の湿式パッチ洗浄装置の乾燥方法として、よく利用されています。
一方で、大型の真空ポンプが必要となるため、導入コストが高くついてしまうのが難点。また、水系洗浄剤や溶剤系だと乾燥条件が異なるため、水系の乾燥には適していません。
吸引乾燥は強力なファンを用いて、ワークに付着している洗浄溶媒を掃除機のように吸い取る乾燥方法です。乾燥を促すために、エアブローや温風ブローと併用される場合もあります。大量のワークを乾燥させたい場合に適しており、条件によっては温風乾燥よりも速く乾燥させることが可能。
吸引乾燥を用いる場合は、吸引ファンの選定に注意が必要です。また、乾燥中の音が大きいことも懸念事項としてあげられます。
蒸気乾燥は、乾燥用溶剤を加熱して作った飽和蒸気中にワークを投入し、温度差による表面の凝縮作用を利用して汚れを流し落とす乾燥法です。蒸気乾燥に用いられる溶剤には、有機溶剤やアルコール系溶剤、炭化水素系溶剤などがあげられます。
使用する溶剤にもよりますが乾燥後に後工程を迅速に行えるほか、均一に乾燥できるのが特徴。また、ワークを重ならないように並べれば、ワークの形状を問わずに乾燥できるのも蒸気乾燥の利点です。一方で、冷却水などの付帯設備や代替フロン溶剤などのコストがかかるデメリットもあり。また、可燃性の有機溶剤を使用する場合は、装置を防爆構造にする必要があります。
バレル用カゴの体積中にワークを70~80%ほど投入し、低速回転させることで乾燥を促進する方法です。大量のワークを乾燥させたい場合に有効な方法で、乾燥時間を短縮させる効果が期待できます。ただし、回転機構の検討が必要になるほか、回転カゴへセットする際に手間がかかるのが難点です。
スピン乾燥は、遠心力を利用してワークを乾燥させる方法です。遠心力は一方向にしか作用しないため、平滑な板状基盤の乾燥に適しています。スピン乾燥は乾燥品質が高く、乾燥時間も1~2分程度と短いのが利点です。また、温風乾燥と併用して用いられる傾向にあります。
スピン乾燥の注意点としては、ワークを高速で回転させるには重心バランスに配慮する必要があり、多品種少量生産の乾燥には向かないこと。また、遠心力が加わるため、破損や折れ、曲がれが懸念されるワークの乾燥にも適していません。
乾燥機は処理方式によって、「連続式」または「バッチ式」に大別されます。処理量が少なく、単価の高い化学分野では、バッチ式が選ばれることが多いようです。また、乾燥機は加熱方式によって「直接加熱式」と「間接加熱式」に分けられ、製品への異物混入が問題になるかどうかで最適な加熱方式が決まります。
製品への異物混入が問題になる化学分野や医薬分野では、間接加熱式の乾燥機が選ばれています。間接加熱式とは、蒸気や熱風、温水などで加熱した金属の板などを対象物に接触させ、熱を与える乾燥法です。
間接加熱式は熱風を対象物に直接あてる直接加熱式と比べ、熱効率が高いのが特徴。また、排ガスの量も少ないため、臭気対策としても有効です。
半導体や各種薬品、食品など、自社商品の研究開発を目的とした工業用乾燥機には、様々なタイプが存在します。
ここでは代表的な5タイプについて、簡易的な比較表にまとめています。自社にはどのタイプが最適なのか、検討をしてみてください。
振動乾燥機
振動乾燥機はドラム型は缶体内に原料を投入し振動を行い、原料の流動化・乾燥を行う乾燥装置です。 |
攪拌乾燥機
攪拌式の乾燥機は、本体内部にあるパドルや羽根により原料を攪拌し、乾燥を行うタイプの乾燥機です。 |
真空回転乾燥機 (コニカルドライヤー) 真空回転乾燥機は、本体部分を密閉して減圧を行い、真空状態を作り出して原料を乾燥する構造の乾燥装置です。 |
箱型棚式 乾燥機 箱型棚式乾燥機はトレイに乾燥物を配置し、乾燥を行う構造の乾燥装置です。 |
流動層乾燥機
流動層乾燥機にはさまざまな形状があり、回転運動や振動、熱風などを利用し乾燥を行います。 |
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材料適⽤ 範囲 様々な種類・状態の材料に対応をしてるか。凝集性・付着性のある材料、水分量の多い材料、を苦手とする乾燥機も。 |
広い 幅広く対応 本体部分は真空状態になるため、様々な材料に対応。また、外に空気が漏れないため、人体に有害なものやナノ粒子状なども対応可能です。 |
広い 幅広く対応 本体部分は閉じられた状態になるため、様々な材料に対応。 |
広い 幅広く対応 本体部分は真空状態になるため、様々な材料に対応。 |
狭い 凝集性・付着性のある材料は苦手 攪拌が行われないため、凝集性・付着性のある材料に適用しない。 |
狭い 凝集性・付着性のある材料不可 攪拌が行われないため、凝集性・付着性のある材料に適用しない。また、水分を多量に含んだものも苦手とする。 |
適⽤量
一度に乾燥を行う材料の適用量はどうか。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩
材料を水平に並べる構造上、大量の材料を乾燥させる際には広いスペースが必要となる。 |
大
大量の材料の乾燥に適用したタイプの乾燥機。 |
粒⼦破損
材料の粒子を破壊せずに乾燥ができるか。物理的な摩擦が少ないものが好ましい。 |
少ない
振動による攪拌のため、機器による摩擦を発生させない。 |
有り
攪拌の際に機器による摩擦が発生しやすい。 |
少ない
回転による攪拌のため、機器による摩擦を発生させない。 |
少ない
攪拌を行わないため、機器による摩擦を発生させない。 |
有り
攪拌の際に機器による摩擦が発生しやすい。 |
加熱温度
関節加熱の温度が高いほど乾燥速度は早まるが、内部構造が複雑な機器の場合、熱膨張の影響を受けやすいため、制限がかかる。 |
高温域 (250度以下) 内部構造がシンプルなため、高温での過熱が可能。 |
中温域 (190度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
中温域 (190度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
高温域 (250度以下) 内部構造がシンプルなため、高温での過熱が可能。 |
低温域 (160度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
コンタミ 発⽣ リスク 乾燥機の内部での摩擦により、コンタミが発生するリスクがあるか。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
高い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こるため、コンタミが発生するリスクが高い。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
高い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こるため、コンタミが発生するリスクが高い。 |
洗浄時間
乾燥を行うごとに洗浄が必要な工業用乾燥機。内部構造が複雑な場合、解体が必要となるため、洗浄時間が長くなる。 |
短い
内部構造がシンプルなため、洗浄時間が短い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
短い
内部構造がシンプルなため、洗浄時間が短い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
消耗 部品 攪拌に羽を使用している、摩擦を起こすための部品が多い乾燥機の場合、消耗品の交換が必要となる。 |
少ない
消耗品はほとんどない。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
少ない
消耗品はほとんどない。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
特⻑ | 上記項⽬に幅広く対応した上で、粒⼦がダマにならない | 最も⼀般的な形式のため使い慣れている研究者が多い | 高真空下で低温乾燥が可能なため、熱に弱い原料に向いている | 食品乾燥など攪拌が必要のないものに 向いている | 大量の原料の乾燥に適している |
代表的な 製品(※) |
中央化工機
VU型振動乾燥機 |
ヤスジマ
YVD真空撹拌乾燥機 |
徳寿工作所
真空回転乾燥機 WDV型 |
長門電機工作所
箱型棚式乾燥機 |
栗本鐵工所
流動層乾燥装置 |
※タイプ別の代表的な製品の選出基準
「振動乾燥機」「攪拌乾燥機」「真空回転乾燥機」「箱型棚式乾燥機」「流動層乾燥機」⇒2022年3月23日時点で各タイプ名をGoogle検索した際、最上位に表示されるメーカーの商品。