工業用乾燥機には、同じ「加熱乾燥」でも熱の伝わり方によっていくつかの方式があります。なかでも「伝導伝熱乾燥」は、加熱された壁を通じて熱を直接、乾かす対象に伝える方式で、真空や密閉された環境でも効率よく処理できるのが大きな特長です。
この記事では、伝導伝熱の仕組みや、伝導伝熱乾燥のメリット・デメリットについて、分かりやすく解説します。
伝導伝熱とは、熱せられた物体が他の物体に直接触れることで、熱が伝わっていく現象です。
たとえば、鉄の棒の片端を加熱すると、反対側までじわじわと熱が伝わっていくように、熱は接触した部分から隣の部分へと少しずつ移動していきます。これが「伝導伝熱」です。
この仕組みを乾燥機に応用したものが「伝導伝熱乾燥」です。
乾燥機のジャケットや内部の加熱面に、蒸気・熱水・熱媒油などの熱媒体を流して壁面を加熱し、その加熱された壁面に乾燥させたい材料を直接触れさせることで、材料に効率よく熱を伝えることができます。
伝導伝熱を利用した乾燥機には、以下のような装置があります。
伝導伝熱は、熱源と材料が直接接しているため、熱がロスなく効率的に伝わります。対流式のように空気を介さない分、熱エネルギーが空間に逃げにくく、伝熱効率は一般に80〜90%程度と非常に高いとされています。
効率が優れているため、乾燥に必要なエネルギーを抑えることが可能。ランニングコストの削減にもつながります。長時間の連続運転が求められる現場や、省エネを重視する施設では、大きなメリットとなります。
伝導伝熱乾燥では、キャリアガス(熱風)をほとんど使用しないため、排気量を大幅に抑えることができます。その結果、周囲に臭気や粉じんが発生しにくくなり、脱臭装置や集じん機などの周辺設備を簡素化できる点も利点です。
とくに、有機溶媒やにおいを含む原料を扱う業種(化学・食品・製薬など)では、排気処理コストの削減や作業環境の改善に直結する重要なポイントとなります。
乾燥中に周囲へ熱が放出されにくいため、作業環境の温度上昇を抑えられるのも伝導伝熱乾燥の特長です。また、熱風を使わないことで粉体の飛散や発火のリスクも抑えられ、可燃性原料を扱う際にも安全性が高まります。
さらに、多くの伝導伝熱乾燥機は密閉構造や真空構造を採用しており、酸化や揮発を防ぎたいプロセスにも適しています。安全管理の面でも、信頼性の高い方式といえるでしょう。
伝導伝熱は「接触面があれば熱が伝わる」というシンプルな仕組みのため、装置の構造も比較的単純です。空気の流れを制御するための大きなダクトやファンが不要な分、装置自体をコンパクトにまとめやすくなります。
スペースに限りのある工場内でも設置しやすく、構造が簡素なぶんメンテナンスも行いやすいため、新規導入のハードルが下がるのも利点です。
伝導伝熱は、熱風が使えない真空環境でも安定して機能する数少ない方式のひとつです。対流が働かない低圧状態でも、壁面からの接触熱によって乾燥が進むため、熱に弱い材料や揮発性の高い溶媒を含む原料の処理にも対応可能です。
このため、真空乾燥機との相性が非常によく、医薬品や機能性材料など、品質や組成の変化を最小限に抑えたい分野で重宝されています。
伝導伝熱乾燥には多くのメリットがありますが、すべての用途に対して万能とはいえません。
構造的な制約や、乾燥する材料との相性によって、あらかじめ理解しておきたい注意点も存在します。ここでは、導入前に押さえておきたい主な課題を詳しく解説します。
伝導伝熱は、加熱面に接した部分から熱が伝わる仕組みです。そのため、材料の全体に熱を均等に届けるには限界があります。
たとえば、塊状で厚みのある材料や、複雑な形状をしている場合、外側だけが先に乾き、内側が十分に乾燥しないといった「乾燥ムラ」が発生しやすくなります。
特に、熱伝導率が低い原料や、熱を遮るような被膜をもつ材料では注意が必要です。撹拌や対流をうまく併用することで改善は可能ですが、装置設計の段階での工夫が欠かせません。
材料が直接加熱面に接触する構造である以上、乾燥中に材料が壁面にこびりついたり、焦げついたりするリスクは避けられません。とくに、粘度の高い原料や、加熱で溶けやすい・変質しやすい材料では、この傾向が顕著になります。
焦げつきが発生すると、製品ロスや歩留まりの低下、伝熱効率の悪化だけでなく、異物混入などの品質トラブルにもつながります。そのため、日常的な点検や洗浄性、撹拌構造の工夫など、装置のメンテナンス性も重要な要素になります。
伝導伝熱は「じわじわと熱を伝える方式」であるため、一度に大量の原料を短時間で処理するのは得意ではありません。とくに、大規模なプラントで高スループットが求められる場面では、対流式や流動層乾燥などに比べてスピード面で劣ると感じられることがあります。
そのため、処理能力を確保するには複数台の同時運用や、たとえば「予備乾燥 → 伝導乾燥 → 冷却」のような工程の組み合わせも検討されます。
伝導伝熱では、「材料が加熱面にどれだけ均一に接触しているか」が、乾燥効率を左右します。材料が団子状にまとまったり、乾燥中に片寄って壁面から離れたりすると、熱の伝わりが悪くなり、乾燥ムラや処理時間の延長につながります。
こうした課題に対応するには、撹拌効率の高い羽根や容器の回転機構などによって、材料を常に加熱面へ分散させる工夫が必要です。装置を選ぶ際は、材料の移動機構もあわせて確認しておくと安心です。
伝導伝熱乾燥では、加熱面を高温に保つ必要があるため、装置内部のパーツやパッキンなどにも熱負荷がかかりやすくなります。とくに真空乾燥のように外部との気流が遮断されている状況では、装置の一部に過剰な熱がたまりやすく、温度制御が難しくなる場合もあります。
これが積み重なると、部品の劣化やシールの不良、機密性の低下など、トラブルの原因になりかねません。そのため、高温域での運転が想定される場合は、装置の耐熱設計や、定期点検・メンテナンス体制の整備が重要です。
伝導伝熱乾燥は、熱源と材料が直接触れることで熱を伝える、効率的で安定した乾燥方式です。とくに、高い熱効率や密閉・真空環境への適応性、製品品質を保ちやすいといった点で大きなメリットがあります。一方で、材料の形状や熱伝導性によっては乾燥ムラが発生したり、加熱面への焦げつきといった課題が生じることもあるため、注意が必要です。
工業用乾燥機の導入を検討する際には、対象となる材料の特性や処理条件に合った乾燥方式を選ぶことが重要です。乾燥機には多くのタイプがあり、製品ごとに特長や適用範囲も異なります。自社のニーズに最適な方式を見極めることが、効果的な導入への第一歩となります。
当サイトでは、代表的な5つの乾燥方式を比較した「タイプ別比較表」をご用意しています。原料の凝集性や洗浄性、粒子破損のリスクなど、複数の視点から比較できる内容になっていますので、ぜひご活用ください。
半導体や各種薬品、食品など、自社商品の研究開発を目的とした工業用乾燥機には、様々なタイプが存在します。
ここでは代表的な5タイプについて、簡易的な比較表にまとめています。自社にはどのタイプが最適なのか、検討をしてみてください。
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振動乾燥機
振動乾燥機はドラム型は缶体内に原料を投入し振動を行い、原料の流動化・乾燥を行う乾燥装置です。 |
攪拌乾燥機
攪拌式の乾燥機は、本体内部にあるパドルや羽根により原料を攪拌し、乾燥を行うタイプの乾燥機です。 |
真空回転乾燥機 (コニカルドライヤー) 真空回転乾燥機は、本体部分を密閉して減圧を行い、真空状態を作り出して原料を乾燥する構造の乾燥装置です。 |
箱型棚式 乾燥機 箱型棚式乾燥機はトレイに乾燥物を配置し、乾燥を行う構造の乾燥装置です。 |
流動層乾燥機
流動層乾燥機にはさまざまな形状があり、回転運動や振動、熱風などを利用し乾燥を行います。 |
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材料適⽤ 範囲 様々な種類・状態の材料に対応をしてるか。凝集性・付着性のある材料、水分量の多い材料、を苦手とする乾燥機も。 |
広い 幅広く対応 本体部分は真空状態になるため、様々な材料に対応。また、外に空気が漏れないため、人体に有害なものやナノ粒子状なども対応可能です。 |
広い 幅広く対応 本体部分は閉じられた状態になるため、様々な材料に対応。 |
広い 幅広く対応 本体部分は真空状態になるため、様々な材料に対応。 |
狭い 凝集性・付着性のある材料は苦手 攪拌が行われないため、凝集性・付着性のある材料に適用しない。 |
狭い 凝集性・付着性のある材料不可 攪拌が行われないため、凝集性・付着性のある材料に適用しない。また、水分を多量に含んだものも苦手とする。 |
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適⽤量
一度に乾燥を行う材料の適用量はどうか。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩〜⼤
様々なサイズの乾燥機をメーカーが用意している。 |
⼩
材料を水平に並べる構造上、大量の材料を乾燥させる際には広いスペースが必要となる。 |
大
大量の材料の乾燥に適用したタイプの乾燥機。 |
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粒⼦破損
材料の粒子を破壊せずに乾燥ができるか。物理的な摩擦が少ないものが好ましい。 |
少ない
振動による攪拌のため、機器による摩擦を発生させない。 |
有り
攪拌の際に機器による摩擦が発生しやすい。 |
少ない
回転による攪拌のため、機器による摩擦を発生させない。 |
少ない
攪拌を行わないため、機器による摩擦を発生させない。 |
有り
攪拌の際に機器による摩擦が発生しやすい。 |
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加熱温度
関節加熱の温度が高いほど乾燥速度は早まるが、内部構造が複雑な機器の場合、熱膨張の影響を受けやすいため、制限がかかる。 |
高温域 (250度以下) 内部構造がシンプルなため、高温での過熱が可能。 |
中温域 (190度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
中温域 (190度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
高温域 (250度以下) 内部構造がシンプルなため、高温での過熱が可能。 |
低温域 (160度以下) 内部構造が複雑なため、200度以上を出すのが難しい。 |
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コンタミ 発⽣ リスク 乾燥機の内部での摩擦により、コンタミが発生するリスクがあるか。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
高い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こるため、コンタミが発生するリスクが高い。 |
低い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こりにくく、コンタミが発生するリスクは低い。 |
高い
乾燥機での攪拌による摩擦が起こるため、コンタミが発生するリスクが高い。 |
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洗浄時間
乾燥を行うごとに洗浄が必要な工業用乾燥機。内部構造が複雑な場合、解体が必要となるため、洗浄時間が長くなる。 |
短い
内部構造がシンプルなため、洗浄時間が短い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
短い
内部構造がシンプルなため、洗浄時間が短い。 |
長い
内部構造が複雑なため、洗浄時間が長い。 |
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消耗 部品 攪拌に羽を使用している、摩擦を起こすための部品が多い乾燥機の場合、消耗品の交換が必要となる。 |
少ない
消耗品はほとんどない。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
少ない
消耗品はほとんどない。 |
多い
消耗品が多く、定期的な交換が必要。 |
| 特⻑ | 上記項⽬に幅広く対応した上で、粒⼦がダマにならない | 最も⼀般的な形式のため使い慣れている研究者が多い | 高真空下で低温乾燥が可能なため、熱に弱い原料に向いている | 食品乾燥など攪拌が必要のないものに 向いている | 大量の原料の乾燥に適している |
| 代表的な 製品(※) |
中央化工機
VU型振動乾燥機 ![]() 引用元:中央化工機HP |
ヤスジマ
YVD真空撹拌乾燥機 ![]() ヤスジマHP |
徳寿工作所
真空回転乾燥機 WDV型 ![]() 徳寿工作所HP |
長門電機工作所
箱型棚式乾燥機 ![]() 引用元:長門電機工作所HP |
栗本鐵工所
流動層乾燥装置 ![]() 引用元:栗本鐵工所HP |
※タイプ別の代表的な製品の選出基準
「振動乾燥機」「攪拌乾燥機」「真空回転乾燥機」「箱型棚式乾燥機」「流動層乾燥機」⇒2022年3月23日時点で各タイプ名をGoogle検索した際、最上位に表示されるメーカーの商品。